第150回 日商1級 答練② ~ 工業簿記・原価計算
最初に全体を見渡して、工業簿記の第1問が部門別個別原価計算で20分、第2問が個別原価計算の勘定記入で10分、原価計算の第1問が予実分析で20分、第2問が設備投資の経済計算で40分といった時間配分を計画すると良いでしょう。
個別原価計算は、時間をかければ誰でも高得点を取ることのできる分野ですが、時間をかけすぎて、全体の点数が伸びないという失敗をしてしまいがちです。
本試験で意思決定が出題された場合、その問題で合否が決まってしまうことが多いので、意思決定に時間を残しておくことを心掛けましょう。
1. 工業簿記
〔第1問〕部門別個別原価計算
製造部門が2つ、補助部門が2つ、複数基準の予定配賦という計算条件で、基準操業度の算定から始めていく必要があります。
この計算条件だと、予定配賦率の設定まで10分程度を見込みつつ、予定配賦率を間違えると、以下全滅になるため、慎重かつ、スピーディーに処理していく必要があります。
基準操業度は、実際的生産能力という指示なので、理論的生産能力から不可避的に生じる作業休止時間を控除した後、12ヶ月で割って求めます。
複数基準で、特段の指示がないため、補助部門の固定費を消費能力の割合で、変動費を予定消費量の割合で配賦することになります。
変動費と固定費の予定配賦率は、ともに円未満の金額がでるため戸惑いますが、合計すると、きれいな金額になります。本試験でこのような予定配賦率が計算されても、動揺しないようにして下さい。
予定配賦率さえ設定できれば、あとの指図書別原価計算表の作成は簡単です。
〔第2問〕個別原価計算の勘定記入
勘定記入といっても、すべての勘定が貸借バランスしているわけではなく、資料から判明する金額だけを穴埋めしていくパズル的要素を含んだ問題です。勘定は貸借バランスしていないと、なんとなく落ち着かないものですが、受験用の問題としては、たまに見かけるので、慣れが必要です。
問1は、「当工場の製造間接費予算には正常仕損費予算が含まれている。」という指示なので、「正常仕損費を間接経費処理する」計算パターンということになります。
正常仕損費の間接経費処理は、出題実績が少ないため、得点できると大きなアドバンテージになるはずです。
予定配賦率に正常仕損費部分が仕込んであるので、仕掛品勘定の借方に集計される製造間接費の金額をもって、正常仕損費込みということになります。
なので、仕掛品勘定の貸方は、「20,300個分の良品の原価」と「1,700個分の仕損品原価」から構成されていることになります。
そして、「1,700個分の仕損品原価」を「正常仕損費の実際発生額」として、製造間接費勘定の借方に振り替えることになります。製造間接費勘定の貸方から出て行く予定配賦額に正常仕損費が仕込んであるので、製造間接費勘定の借方にもその実際発生額を集計してくる必要がある、ということです。
ただし、本問の場合、1,700個の仕損品に投入された原価は221,000円ですが、材料として再利用価値が34,000円あるので、正常仕損品が1,700個発生したことによって会社が被ったロスは187,000円(=221,000円-34,000円)で、これが正常仕損費ということになります。
問2は、「当工場の製造間接費予算には正常仕損費予算が含まれていない。」という指示なので、「正常仕損費を直接経費処理する」計算パターンです。
仕掛品勘定の借方には、加工品1,400個分の原価が集計されています。
そして、加工品1,400個のうち450個が仕損品となっていますが、この450個の仕損品に投入された原価は、正常仕損費として950個の良品に負担させることになります。
従って、結局、加工品1,400個に投入された原価の全部を950個の良品が負担することになります。
ただし、本問の場合、450個の仕損品に材料としての再利用価値が18,000円あるので、1,400個に投入された原価から18,000円を控除した金額が950個分の良品の原価ということになります。
2. 原価計算
〔第1問〕営業利益の予算実績差異分析
営業利益の予実分析の問題は、講義中にも口にしているように、定型的な分析図に資料をあてはめていくだけで、「100%必ず、絶対に解ける。」ということになります。
答練の解説にある、定型的な分析図を必ず、覚えて下さい。
〔第2問〕設備投資の経済計算(正味現在価値法)
設備投資の経済計算は、正しいタイムテーブルが書ければ満点、書けなければ大きな失点となるため、得点に差がつきやすく、合否を決する問題となることが多いです。
意思決定問題は、焦ると上手くいかないので、時間を多めに確保するように心掛けて下さい。
現有設備の生産能力は10,000個、新設備の生産能力は12,000個、販売可能量は15,000個という設定になっています。
問1~問4までは、現有設備を保有したまま新設備を買い足す、という拡張投資の問題です。
指示がなくても、正味現在価値が最も大きくなるように意思決定します。
従って、まず、販売可能量の全量を販売すると仮定した上で、生産効率の良い新設備で12,000個を生産し、残りの3,000個を現有設備で生産すると考えます。
この生産量の内訳が資料に与えられていたら、受験生全体の平均点も随分上がったと思いますが、本試験では、自分で判断させる問題も少なくありません。こういった判断を正しく行うことができれば、他の受験生に大きな差をつけることができる、と考えるようにして下さい。
問5~問7までは、生産能力10,000個の現有設備を売却して、生産能力12,000個の新設備に取り替えるという、取替投資の問題です。
一般的な取替投資の問題は、新設備に取り替えることによって、「収益は不変だが、現金支出費用を節約できる。」という設定になっていますが、本問では、収益も変化します。
具体的には、新設備に取り替えることで売上高が10,000千円増加しますが、現金支出費用は1,000千円しか増加しないため、年々の税引前キャッシュ・フローは9,000千円増加することになります。
その分、課税される税金が増えてしまうので、年々のキャッシュ・フローの増加額は、税引後で5,400千円(=9,000×(1-税率))となります。
あとは定型的な計算要素なので、解説のタイムテーブルと照らし合わせてみて下さい。
案外、工業簿記の第2問の勘定記入が難しかったかも知れないです。
色々な論点を含んだ、粒ぞろいの問題なので、素点ベースで70点が合格点と予想します。