第150回 日商1級 答練① ~ 工業簿記・原価計算

まず、問題の全体に目を通すと、工業簿記から1問、原価計算から2問出題されています。
おおよそ同分量の問題なので、30分ずつの時間配分を予定して解き始めると良いでしょう。

1. 工業簿記
工業簿記は、正常仕損が発生する場合の標準原価計算です。
90%点で製品検査を行い、合格品に追加材料を投入するという条件なので、下書き用紙に、解説にあるようなイメージ図を描いて下さい。本試験では、こういった図を下書きに書くことで、気持ちが落ち着いていきます。

問1では、実際原価計算を適用させていますが、実際総合原価計算は、煎じ詰めれば、各原価要素の投入原価を完成品と期末仕掛品に何対何の割合で配分するか、という手続きなので、これもまた、解説にあるような図を描くことで、簡単に正解にたどり着けたはずです。

問2からは、いよいよ標準原価計算の適用です。
正常仕損費の集計は、「仕損品のピックアップが加工進捗度90%点で行われていること」、「合格品にのみ追加材料を投入しているため、仕損品は追加材料費を負担させる必要がないこと」がポイントになります。
また、仕損費をどのように負担させるかですが、仕損発生率10%というのは、例えば、11単位の加工品を検査した場合、1単位が仕損品で、10単位が良品という状況を想定するのが一般的です。つまり、アウトプットのうち、良品10単位につき、仕損品が1単位発生する状況を想定するので、完成品1単位の正味標準原価50,000円に負担させるべきは、正常仕損品原価0.1個分(=38,000×0.1=3,800円)ということになります。
ここで、仕損発生率10%を「10単位の加工品を検査した場合に、1単位が仕損品で、9単位が良品」という状況を想定すると、以下全滅になるので、大いに注意して下さい。

問3では、差異分析を原価要素別に行います。しかも、原価標準に正常仕損費を「含まない場合」と「含む場合」の両方が問われています。
仕損が工程の途中点で発生し、追加材料も途中点で投入されるため、標準原価計算について、しっかりと理解できていないと、太刀打ちできないような問題です。
問3の段階では、SQやSHが算出できればいいわけで、仕損発生率を標準とした場合のボックス図を描いて、その当期投入の完成品換算量に標準能率を乗じることで、定型的に算出することが出来ます。正常仕損費を「含まない場合」と「含む場合」とを比較対照できるように、解説を作成していますので、大いに参考にして下さい。

問4では、差異を原因別に分解します。
差異分析のボックス図の一番内側の消費量(作業時間)は、仕損発生率も標準、作業能率も標準とした場合の標準値です。一番外側の消費量(作業時間)は、仕損発生率も実績、作業能率も実績とした場合の実績値です。この標準値と実績値の間におく数値の組み合わせは2通り考えられますが、原則として、仕損発生率は実績、作業能率は標準の組み合わせで算定した数値をおきます。そうすることで、「余分な仕損品が生んだ余分な材料投入量(作業時間)」「作業能率が標準と実績とで異なったことによって生まれた純粋に能率面の差異」を算出することが出来ます。
本問の場合、正常仕損費を含まない(=標準の仕損発生率はゼロとする)状態を前提に、余分な仕損品は実際仕損である300単位と考えます。慣れた受験生であれば、差異分析のためのボックス図を描かずに、余分な仕損300単位が生んだ余分な材料投入量@8×300単位余分な作業時間@4×300単位×90%を頭の中で算定できるはずです。

問5では、品質改善プログラムへ投入できるコストの上限が問われていますので、仕損品をゼロにすることで節約できる原価、すなわち、300単位(90%)へ投入されている原価を算定することになります。過去に何度か出題されたことのある計算パターンです。

2. 原価計算
第1問は、工程別の実際原価計算ですが、仕損発生率に大きな特異性のある問題です。
仕損発生率は、上の工業簿記の問題のように、「仕損発生点を通過した後の加工品量に対して設定」されるのが通常ですが、本問では、「仕損発生点を通過する前の加工品量に対して設定」されています。実際に、日商の本試験で使用された計算条件で、指示に従う他ありませんが、問題としては、あまり褒められたものではありません。注意喚起的な意味で、答練として出題しておきました。

第2問は、標準原価計算ですが、本問の仕損発生率は、通常通り、「仕損発生点を通過した後の加工品量に対して設定」されています。異常仕損費を把握するため、「非度外視法の標準原価カード」の問題です。この問題パターンでは、実績の仕掛品勘定の当期投入の数量に対して、標準能率を乗じることで、簡単にSQ、SHを算出できます。
標準原価計算の問題は、「通常の標準原価計算の出題パターン」なのか、「標準原価カードの出題パターン」なのか、標準原価カードの出題パターンであれば、「度外視法の恭順原価カード」「非度外視法の標準原価カード」かを見極める必要があります。どの出題パターンかによって、SQ、SHは三者三様です。

問2は、SQ、SHが最も求めやすい「非度外視法の標準原価カード」の問題です。
ただ、問2の解説で、もし、本問において、異常仕損費を把握していない場合は・・・という展開で訂正箇所があります。ボックス図の正常仕損品の数量が30(15)となっていますが、終点発生なので、正しくは30(30)です。この結果、SH=2.5h×1,225=3,062.5hとなり、作業時間差異は△712,500円となります。

問3は、初見の差異分析でした。
「標準の生産割合1:1を前提としたSQ、SH」と、「両製品の実際の生産数量を前提とした場合に、これを標準作業能率で行っていれば何kg、何時間で済んでいたのか」とを比較する問題でした。こういう風に問われると解けるかも知れませんが、問題文のような表現だけでは、正解に辿り着けるのは難しかったと思います。

全体的に難易度が高かったため、工業簿記・原価計算の第1回答練の合格点は、35点/50点とします。