退職給付会計は、財務会計論Ⅰの中でも難しさTOP3に入る重要論点です。最終的な目的は、企業が将来、従業員の退職後に退職一時金や年金として支払わなければならない義務を「退職給付に係る負債(連結財務諸表)」として計上することです。将来の支出を見越計上する会計処理としては引当金があるので、個別財務諸表では「退職給付引当金」を計上することになります。
例えば、特別修繕引当金であれば、将来の特別修繕のための支出に備えて企業内に資金を留保するために引当金を設定します。退職給付引当金も、将来の退職一時金の支払いのために企業内に資金を留保するために引当金を設定します。
難しいのが「年金」です。厚生年金とか、企業年金とか、耳にしたことはありませんか?従業員の退職後に長期にわたり支払われる年金は、その算定基礎が非常に複雑であり(これは受験に関係ありませんのでご安心を)、資金の運用や年金の支払いが企業から「年金基金」に外注されています。仕組みとしては、①企業が年金基金に掛け金を拠出する(年金の支払のための資金を積み立てる)→②年金基金が資金を運用し、退職者に年金を支払う、ということになります。退職給付会計では、企業が積み立てた資金を年金資産として、将来年金を支払う義務を退職給付債務として、その差額を「退職給付に係る負債(連結財務諸表)」として計上します。積み立てた資金を実際に保有して運用しているのは年金基金でも、企業の従業員が退職後に受取る年金のための資金であるから企業の資産として、年金の支払いを行うのは年金基金でも、支払義務を負っているのは従業員から労働の提供を受けていた企業であるから企業の負債として考えるわけです。
ここで、退職給付債務の複雑な計算要素の見積の変更等を原因として、数理計算上の差異や過去勤務費用が生じることがあります。これらの取り扱いが個別財務諸表と連結財務諸表で異なっていますが、日商簿記検定としては、個別財務諸表の処理をマスターすれば十分です。
個別論点は基本的に仕訳を重視した講義を行っていますが、退職給付会計に関しては、いわゆるT勘定(借方:年金資産、貸方:退職給付債務)で解いていきます。推定問題等のひねりのある問題を解くためには、退職給付会計の仕組みを理解している必要があり、仕訳が切れるだけでは不十分です。テーマ3で紹介しているT勘定が使いこなせるように計算問題集で練習してください。