税理士試験の簿記論と財務諸表論は、理論問題対策の必要性が大きく違います。財務諸表論では、第1問と第2問がほぼ理論問題です。多くの場合、会計基準等の抜粋があり、それに関連する理論問題が出題されます。空欄補充や記号選択あり、記述式ありと出題形式は様々です。記述式の解答欄は3行~6行と実施回や問題によって異なります。まれに簿記論で出題される理論問題は、財務諸表論より簡単ですから、財務諸表論の理論対策で対応できます。
一方、簿記論の第1問、第2問は個別論点の計算問題です。帳簿組織や本支店会計、キャッシュ・フロー計算書等の構造問題か個別論点の場合は仕訳問題が出題されます。
最後に、簿記論と財務諸表論の第3問は、財務諸表作成形式の総合計算問題になっています。個別論点の積み重ねで作成される財務諸表作成形式の総合問題は両科目で出題されますが、過去問を解いてきた印象として、簿記論より財務諸表論の方が簡単なことが多いようです。帳簿組織や本支店会計、キャッシュ・フロー計算書などを除くと、「財務諸表論の総合問題」→「簿記論の総合問題」→「簿記論の個別問題」の順に難しくなる印象です。
Ⅰ. 学習方法
1:理論
まずは、出題の定番となっている会計基準で採用されている会計処理やその論拠からクリアにしていきましょう。会計基準等を抜粋して空欄補充させる問題が頻出なので、会計基準の文言で会計処理を理解していきましょう。通常、計算対策から学習を始めるでしょうから、既知の計算が会計基準での文言でどうなっているかを確認していくと覚えやすく効率的でしょう。次に、会計処理の論拠ですが、これは会計基準の「結論の背景」が出典となっていることが多いようです。「結論の背景」では、会計基準で採用されなかった会計処理の論拠も対比させつつ、会計処理の採用理由を説明しています。答案とすべき会計処理の採用理由は、採用されなかった会計処理の問題点であったりもするので、両者を同時に学習すると効率的です。
2:計算
計算問題は出題形式こそ違えど、簿記論と財務諸表論で対策として学習すべき内容には大きな差はありません。ここでは、計算問題対策のなかでも個別論点についてご紹介します。
総合問題のなかで与えられる各財務諸表項目の取引条件等は、基本的な処理を求めることが大半ですから、まずはテキストの最初の設例になるような基本的な処理を確実にマスターしましょう。次に、一部の財務諸表項目で必要となってくる応用的な処理も確認していきます。例えば、リース取引であれば残価保証であったり途中解約があったりというような処理です。あまりに複雑でマイナーな取引条件の処理は総合問題の中では出題されにくく、簿記論の個別問題では出題されるので、順番としては最後に取り組みます。簿記論の個別問題では、仕訳問題も頻出ですから、財務諸表項目の残高や変動額が計算できるだけでなく、期中の仕訳も含む一連の会計処理を仕訳で確認しておくことも忘れないでください。
Ⅱ. 教材の紹介
1:財務諸表論ⅠⅡ (講義時間: 67.5時間)
個別論点を対象とした教材です。理論対策としては、分野毎に必要な会計基準の解説、会計基準の結論の背景から抜粋した会計処理の論拠・対立する見解の解説、理論の記述例の紹介を行っています。暗記が得意な方は、記述例やそれこそ会計基準の文言を丸暗記して、本試験問題に合わせて編集して答案作成する方針もあり得ると思いますが、覚えることは最小限に留めたい方が多数派でしょうから、対立する見解や選択適用される処理の論拠等は、対比して覚えやすいように併記し、かつ、できるだけポイントを絞って箇条書きにしています。重要な理論については記述例も合わせて紹介していますので、覚えたキーワードを組み立てて文章化するとこうなる、というところも確認してください。重要性に応じて*~***を付してありますので参考にしてください。
計算対策としては、初学者の方向けに基本的会計処理を仕訳一覧と設例で紹介しています。仕訳毎に説明を付していますので、受験経験者の方もこれまで学習してきた内容を再確認してください。応用的な会計処理については、会計基準と適用指針の解説や仕訳例として紹介していることが多く、具体的な数値を用いた解説は計算問題集で行っています。
2:計算問題集Vol.1①② (解説時間: 21時間)
個別論点に対応した計算問題集です。動画解説付きの計算問題集で、基本的処理から応用的問題まで計算練習を積むことができます。会計基準や適用指針の解説として紹介した応用的処理も、計算問題を解いた上で動画解説で確認できます。そうしたことからも、単なる問題集というよりもテキストの延長として捉えてください。簿記論の個別問題で頻出の仕訳問題に対応できるように、解説にはできるだけ多く、一連の会計処理を仕訳で示してあります。解答数値を求めるに留まらず、解答以外の財務諸表項目の残高や増減額についても確認するようにしてください。解答欄に付された重要性のA~Cは、以下のように優先順位の目安としてください。
- 総合問題の中で出題されたなら、必ず正しく処理したい基本的処理の問題。
- 総合問題の中で出題されたなら、半分以上は正しく処理したい応用的処理の問題。
- 簿記論で個別論点として出題されうる難しい問題。
3. 財務理論問題のメール配信
およそ週1回のペースで理論問題の「問題・答案・解説」のセット
4:簿記論Ⅰ (講義時間: 26時間)
「簿記論Ⅰ」では、連結会計、企業結合、事業分離を取り扱っています。ここ5年間の会計士短答式本試験問題を解ききることができるようなレベルに設定して制作しています。短答式本試験と税理士試験の連結会計は、ほぼ同レベルなので、両試験に活用でき、本テキストの内容をしっかり学習しておけば、合格点はクリアできるはずです。 連結会計は、「連結修正仕訳をいくつ覚えているか」にかかっています。本テキストにも数多くの連結修正仕訳が掲載されています。覚えにくい仕訳は、仕訳ノートを作って、暗記しておけば、連結会計の問題をスムーズに解けるようになります。
5:計算問題集Vol.2 (解説時間: 5.5時間)
前半は、日商2級の連結会計の範囲で制作していますが、難易度の比較的高い問題です。 後半は、簿記論Ⅰに対応した問題集ですが、総合問題ばかりなので、テキストの10章まで学習してしてから、解き始めた方が良いです。ただし、問題12、13の連結キャッシュフローについても問われているため、キャッシュフロー計算書が初めての方は、簿記論Ⅱの学習を終えてからということになります。後半については、解説動画があります。 会計士短答式や日商1級の過去問をベースに、良問ばかりを集めた問題集となっておりますので、是非、合格にお役立て下さい。連結等に関しては、とにかく「良質な総合問題を繰り返し」というのが、効率的な学習になります。
6:簿記論Ⅱ (講義時間: 17時間)
「簿記論Ⅱ」では、現金・手形・有価証券・商品売買・本支店については、3・2級の学習分野も含めて解説しています。これは、日商試験の出題範囲が頻繁に変更されるため、3・2級の学習時期によって学習内容が左右されないように配慮しているためです。受験生によっては、既に学習済みの内容が多く含まれますことをご理解下さい。 入門期に学習していない分野は、特殊商品売買とキャッシュ・フロー計算書です。特殊商品売買については、新収益認識基準による影響で、今後、割賦販売や委託販売の仕切計算書到達基準は出題されなくなることが予想されます。 キャッシュ・フロー計算書は、会計士試験だけでなく、税理士試験、日商1級においても出題実績があります。手を広げていくと、かなり難解になりますが、試験に合格できる実力を付けるという意味では、本テキストと問題集で十分なので、両教材をしっかりとやりこんで下さい。
7:計算問題集Vol.3 (解説時間: 7時間)
簿記論Ⅱに対応した問題集です。会計士の短答式試験と同程度の資料量で作成していますので、学習内容の確認にご利用下さい。特殊商品売買の原価率算定問題は、出題可能性が低いこと、他の受験生も手薄であることから、余裕がある人だけで構わないです。 また、近年、2級の学習分野とされた「クレジット売掛金」や「リース」などについて、2級テキスト該当部分を本問題集の後半に収録しておりますので、未学習の方はご参照ください。なお、最後の2ページで、消費税の計算の仕組みを紹介しています。税理士試験の簿記論・財務諸表論では、法人税や消費税の税額計算自体は問われませんので、最後の2ページは参考資料となります。